MY SOUP DAYS スープボウル1杯分のちいさな小説 文・渡辺潤平

Vol.1 Juli @ボストン・クラムチャウダー

私の一日は、スタートが早い。 と言っても、まだほんの数ヶ月のことだ。 LGS-CR23 夏のボーナスで思い切って買ったバイオレットのロードバイクが、 これまで27年間、誰も変えることのできなかった私のライフスタイルを、 じつにあっさりと一変させてしまった。 (これまでの恋人たちは、きっと拍子抜けするだろう)

はじめは、週末だけの楽しみのつもりだった。 それでも、誘惑にはやはり勝てない。 うだるような暑さが嘘のように止んだ、9月の木曜日。 その朝、空はMacで色づけをしたかのようなブルーだった。 やわらかな秋の風が、囁くように後ろ髪を揺らす。 気がつけば、私はスニーカーを履き、会社へ向けてペダルを踏みしめていた。

以来、私は週の半分以上を自転車で通勤している。 澄んだ朝の空気を胸いっぱいに吸い込んで、東京の街を走る。 その快感は、今のところ何物にも代え難い。 雑誌の編集プロダクションという仕事柄、 服装にある程度の自由が与えられているのも大きかった。

千駄ヶ谷の自宅から神宮外苑を抜け、権田原の緑のトンネルを下り、四谷へ。 のんびり走るなら、まだクルマの量が増えない7時台がいい。 必然的に、ベッドを抜け出す時間が早くなった。

Q: 自転車が、私に届けてくれた、思いがけないプレゼント。 A: 朝の心地よいひととき。

朝という時間が、ここまで気持ちのよいものだという記憶を、 私はどこかに置き去りにしていたらしい。 ネットでFMを聴きながら、シャワーを浴び、ミニマムなメイクをし、スープを食べる。 最近のヘビーローテーションは、ボストン・クラムチャウダー。 冷凍のパックを、鍋でさっと温める。時間に余裕がある日はバゲットも。 ほのかな甘みと、きりっとした味わいが、カラダをやさしく目覚めさせてくれる。 このささやかなひとときは、自分のココロとカラダのコンディションを確かめる、大切な時間。 最近、そんな気がしている。

もうすぐ、冬が来る。 この街の冷たいビル風は、そんなに紳士的ではないだろう。 それでも、できる限り、このあたらしい日常を続けたい。 私はいま、そんなことを考えている。

Vol.1 Juli @ボストン・クラムチャウダー

ボストン・
クラムチャウダー

ボストン・クラムチャウダー

フレッシュなはまぐりの旨味をじっくり引き出した、コクのあるクリーミーなクラムチャウダーです。
Back Number
  • Vol.1 Juli@ボストン・クラムチャウダー
  • Vol.2 秘密@パンプキンパーティー
  • Vol.3 冬の星座
  • Vol.4 ふたりの温度差
  • Vol.5 春の夜、高架鉄道の走る町で
  • Vol.6 雨の音はどんな音
  • Vol.7 ターコイズブルー
  • Vol.8 再試合
  • Vol.9 クリスマスの片隅で
  • Vol.10 タイムゴーズバイ
  • Vol.11 飲みすぎた俺たちは夜明け近く春の街を歩く
  • Vol.12 蝉の婚活