MY SOUP DAYS スープボウル1杯分のちいさな小説

Vol.10 タイムゴーズバイ

 鍋焼きうどんでもいくかな、やっぱ寒いときは鍋焼きうどんだな。などと思いながら昼休み、歩いていると、後輩の平山が話しかけてきた。「やっぱ鍋焼きうどんっすかね、こう寒いと」。間違ったことを言っているわけではないのだが、それはいま俺が考えていたことだ。こいつの言い方はなぜか癇に障ることが多い。タイミングなのだろうか。 「それより、知ってますか」 「知らねえよ」 「ちょっとぉ聞いてくださいよ。なんでも時間のスピードが速くなってるらしいっすよ」 「なんだそれ」 「たとえば、えーもう正月かぁこの前正月迎えたばっかりなのに1年ってあっという間だなぁ、っていうあれ、気のせいじゃないらしいんですよ。わかりやすくいうと」 「お前、俺に、わかりやすくいうと、とかってやめろ」 「すいませんすいません、ようするに、いままでたとえば1時間が時速40kmぐらいで進んでたとしたら、それが時速60kmぐらいとかになってるらしいです」 「えらく速いな。だいたいなんでお前がそんなこと知ってんだ」 「午後のワイドショーでやってました」 「ワイドショー?あ!お前きのう休んでただろそういえば」 「有給消化しないと上がうるさいんですよ」 「お前が休んでても全然迷惑じゃなかったけどな」 「だからとにかく、1時間たつのに50分ぐらいしかかからなくなってるらしいんですよ」 「え!じゃあ1時間たつのに1時間かからないってことか!?」 「そうなんです」 「おいおいおいおいおい、なんでそんなことになってんだ!」 「世界は物質と反物質でできており物質の量が反物質よりも過剰なのは世界が非対称だからです」 「おい」 「いっぽう光の速度は秒速29万9792.495mで、これを超える素粒子が存在するとアインシュタインが困ることになります」 「おい平山」 「宇宙は22%の暗黒物質と74%の暗黒エネルギーでできており我々人類がこれまで観測してきた物質は全宇宙のわずか4%に過ぎません。15万光年離れた大マゼラン星雲の超新星SN1987Aからやってきた電子ニュートリノのカンソクによって3種類のニュートリノノ質量ガアキラカニサレタガニュートリノノシツリョウハゴクチイサクアンコクブッシツノカイメイニキヨスルコトハ・・・」 「おい、おちつけ平山!ちょっとその、あれだ、わかりやすくいってくれないかな・・・」 「ワカリマセン」 「は?」 「記憶力ガ異常ニイイダケデイッテルナイヨウハヨクワカリマセン」 「何者なんだお前は!それより声がヘリウムガスみたいになってるぞ」 「デスヨネ。ナンカ回転数ガハヤクナッテル感ジデス。ヤッパ時間ハヤクナッテルンデスヨマチガイナク」 「本当かのう。おっといかん、もうこんな時間じゃ」 「センパイ!ナンカシャベリカタ変ニナッテマスヨ」 「普通にしゃべってるつもりなんじゃが。なんだかちょっと老けた気分じゃのう」 「ヤバイッスヨ、時間ノスピードドンドンアガッテルンスヨキット!」 「がちょ―ん。とにかく飯じゃ飯じゃ。もう鍋焼きうどん食ってる時間ないぞ」 「デスヨネ。テカ、ガチョ―ンッテナンナンスカ」 「わからん、つい言ってしまうようじゃ。時間が変になって時代錯誤もおこっちょるらしい。あ、そうじゃ、あそこにスープ屋がある。スープなら時間かからないぞ」 「ア、 イイッスネ」 スタスタスタスタ スタスタスタスタ 「クラムチャウダークダサイ」 「クラムチャウダーをひとつお願いできるかの」 スタスタスタスタ スタスタスタスタ 「うまかったのう」 「ウマカッタッスネ」 「あっという間に食べてしまったのう」 「タベルノモハヤクナッテルンスネ」 「お前の手の動きすこぶる速かったぞ」 「センパイコソハヤスギテギャクニトマッテミエマシタヨ」 「エリック・クラプトンみたいじゃろう。ふっはっはっは」 「ハハハハハハハハハハ」 スタスタスタスタ スタスタスタスタ 「2013ネンモコレジャアットイウマッスネキット」 「めまぐるしいのう。しかもまぶしいのう」 「マブシイノウッテユウヤケジャナイスカ!カラスガヤマニカエロウトシテマスヨ!ヤバイッスヨセンパイ!」 「シェー」 カァ~

Vol.8 再試合

ボストン・
クラムチャウダー

ボストン・クラムチャウダー

フレッシュなはまぐりの旨味をじっくり引き出した、コクのあるクリーミーなクラムチャウダーです。
Back Number
  • Vol.1 Juli@ボストン・クラムチャウダー
  • Vol.2 秘密@パンプキンパーティー
  • Vol.3 冬の星座
  • Vol.4 ふたりの温度差
  • Vol.5 春の夜、高架鉄道の走る町で
  • Vol.6 雨の音はどんな音
  • Vol.7 ターコイズブルー
  • Vol.8 再試合
  • Vol.9 クリスマスの片隅で
  • Vol.10 タイムゴーズバイ
  • Vol.11 飲みすぎた俺たちは夜明け近く春の街を歩く
  • Vol.12 蝉の婚活